第1 事業の後継問題

1 「事業承継」対策の重要性
2 事業承継フローチャート~全体像の把握~
3 現状分析
4 方針の決定
5 事業承継計画
 

1 「事業承継」対策の重要性

(1)「事業承継」対策

 近年の高齢化で、日本経済を支えてきた中小企業の経営者の方の引退が増えてきています。経営者の引退にともない、残念ながら廃業せざるを得ない場合もあります。しかし、長年の努力で築き上げてきた事業を後の世代に引き継ぎたいと希望する方も多く、この場合には事業の引継ぎ、すなわち「事業承継」を行うことになります。

いわば、経営者の最後の大仕事が後継者へのスムーズな事業承継といえます。


 まず、「事業承継」の現状を把握しましょう。かつては、事業承継は経営者から親族に事業を承継することがほとんどでした。しかし、近年では親族ではない会社の役員・従業員を後継者とする場合や、他の会社にM&A等で事業承継させる場合が増えてきました。

 その要因としては、子には自分で生き方を選ばせたいという意識を持つ人が増えたこともありますが、子や親族の素質不適格・現状の能力不足など現実的な事情もあります。

 

 このような状況の中でスムーズな事業承継を行うには、事業承継を行ううえで問題となる事項を把握し、将来を見据えた計画性をもって準備を進めていく必要があります。

 経営者、後継者、会社従業員、事業に関わる全ての人の明るい未来のために、事業承継の手順、問題点を検討していきます!
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2 事業承継フローチャート~全体像の把握~

 
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3 現状分析

 事業の将来を考えるには、現状の正確な把握が必要となります。ここでは、①会社、②個人にわけて分析すべき事項を整理していきます。

(1)会社の現状を把握する

ア 経営体制の分析

 会社自体の沿革や歴史、創業理念などについて、改めて見直して今後も通用するのか、刷新が必要なのかということを問い直す必要があります。

 その過程で、会社関係者や株主構成も整理しておきましょう。会社の経営が人間関係に重きを置いて成り立っているものであるならば、全くの第三者に承継してもうまくいかないことが考えられます。事業の継続の観点からは、主要な取引先、金融機関との関係性は特に注意が必要です。株主構成については株主名簿で確認をします(※下記「名義株主」に注意)。特に現経営者の持ち株比率、主要な株主は把握しておきましょう。

 従業員の人数や年齢の把握も重要です。これらが政策上の優遇を受けられる要件に関わる場合があり、事業の継続性を左右する重要事項となり得ます。(例:特定求職者雇用開発助成金、非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例)。

 

※名義株主

 名義だけの株主をいいます。そして、第三者の名義を借りた株式を名義株といいます。名義株は株主名簿上の株主と実際の権利者が異なることにより権利関係が複雑となるので早急に整理が必要です。

 名義株の権利者が誰であるかについては判例があり、「払込みをした者」すなわち実質的な出資者が権利者となります(最判昭42.11.17、判時504.85)。その判定については、出資したことを証明する書類、名義貸与者と名義借用者の合意書、株式取得目的、取得後の配当金の受取実績、名義借りの理由等から総合的に判断するとした裁判例があり参考になります(東京地判昭57.3.30、判タ471.220)。

 名義株主と交渉できるならば、確認書を作成し、名義書換手続をするようにしましょう。争いとなった場合には上記判例を参考に払い込みをした者を証する証拠を用意して交渉しましょう。また、名義株主が死亡し相続人に株式がわたっている場合には、経緯を丁寧に説明して、争いとならないよう交渉しましょう。名義株主が所在不明な場合には、一定の要件を満たせば会社がその株式を取得することができます(会社法197条)。

 

イ 事業内容の分析

 事業を継続するかの分析の中でまず行うのが、利益状況の分析です。分析は直前期だけではなく、最低でも3年分の決算書・計算表をみて行いましょう。

 決算書では、経常利益の赤字黒字よりも、本業である営業利益が黒字であるかが事業継続の観点からは大切です。営業利益に注目です!

 貸借対照表からは、会社の資産・資金という体力を判断します。資産・資金があれば業績が一次的に悪くなった場合にも経営を維持できます。ここで注意すべきなのは、貸借対照表上、売れ残りの在庫も資産として計上されてしまうため、数値的には悪くなくても資金繰りが上手くいっていないというケースもあることです。
 資産や負債の現状価値の把握が必要です。売掛金、受取手形は相手方の経営状況により、価値が異なります。不動産については、建物の減価償却を毎年行っているか、簿価と時価に相違がないか等が問題となります。

ウ 財務内容の分析

 事業の資金繰りを把握するためには、まずキャッシュ・フロー計算書の作成が重要となります。営業活動、投資活動、財務活動それぞれについてキャッシュ・フロー計算書を作成して分析を行います。

例)

営業活動のキャッシュフローでプラス :本業で利益出ている
投資活動のキャッシュフローでマイナス:設備投資していることが要因→本業で活かせる
財務活動のキャッシュフローで短期の高額な借り入れがある:返済困難

 会社の借入金については、額のみならず借入先もしっかりと把握しておきましょう。メインバンクのみならず、親戚縁者からの借り入れが増えている場合には経営状況は悪化しているといえます。

 また、金融機関からの借り入れに関し、連帯保証や担保を差し入れを行っている場合にはこれについても整理しておく必要があります。中小企業では経営者個人が保証人になったり、担保をいれる場合が多く、事業承継後も保証や担保を引き継ぐのかが問題となるからです。現経営者の保証・担保提供からの離脱については、金融機関が難色を示すことがあり、事業承継がスムーズに進まないことがあります。個人資産をあてにした借り入れについては当事者でよく相談して、事業承継を機に解消しておくことが後々の問題の予防となります。

 

(2)個人の現状を把握する

ア 保有株式の調査

 スムーズな事業承継をするためには、株式の保有状況、株価の評価を把握していなければいけません。

 個人の株式の保有状況については株主名簿を確認し、グループごとにまとめるなど分かり易く整理しておきましょう。 

 株価の評価については、上場会社であれば時価での評価となります。時価のない非上場会社においては、株主の形態や保有目的により異なる評価方式が用いられています(相続税北上)。以下の表が分類を示したものとなります。

・株価の評価方法分類表

 

イ 個人名義資産、負債の調査・検討

 事業の承継を考えるに際しては、現経営者やその親族の個人資産を事業に利用していないか、これらの個人から借入れしていないかを調査しておく必要があります。事業承継により現経営者と事業とのかかわりが希薄化する場合には、権利関係が複雑になり事業の継続に支障がでる恐れがあるからです。

 調査においては、会社が事業に利用している個人資産、個人からの借入れをリストアアップし、契約書などの書類の所在・内容を確認しましょう。そして、借入金については返済の計画を立てましょう。高額である場合には長期的な計画が必要です。返済について現金余力や時間的な余裕がない場合などには、デット・エクイティ・スワップ(DES)の手法で借入債務を株式に振り替えるということも考えられます。ただし、DESの利用は、貸し手(債権者)に貸金債権を株式に換えてもらう以上、会社・事業の将来の成長の見込みを示せなければ認めてもらうのは難しいです。 
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4 方針の決定

(1)事業継続性の検討

 将来の事業の継続性を検討することが事業承継の方針決定に必要です。継続性に解決困難な問題がある場合には、承継を諦め廃業することも選択肢に入ります。

 上記3のように会社内部の現状分析をしたうえで、外的な将来の市場・政策の動向分析、事業承継にかかる資金獲得の問題を考えます。 

(2)承継方法の選択

ア 後継者リスト

 後継者の選定が事業承継では特に重要です。適切な後継者を選定できるかどうかは、承継後の事業継続のみならず、そもそも承継するかどうかを左右します。

 まずは後継者候補をリストアップし、適性や後継着任の実現可能性を検討していきます。これは時間のかかるものであり、事後のトラブルをさけるためには現経営者が前もって決定しておく必要があるので、計画性をもって進めましょう。

イ 承継方法毎のメリット・デメリット

 承継方法としては、「親族内承継」、「親族外承継」、「第三者への売却(M&A)」が考えられます。

 各方法のメリット・デメリットを確認しておきましょう。

ウ 関係者の意思の確認

 まずは経営者自身が事業承継に関する意思を確認する必要があります。自身の子・孫に引き継がせたいのか、事業の継続を重視し親族外・第三者に承継させるのか、廃業するのか、非常に悩ましい問題ですが、これから計画性をもって承継を進めるには決断が必要です。

 次に後継者の意思確認をしましょう。事業の状況や問題点を正確に伝えたうえで、経営に対する意欲を確認しましょう。後継者候補との接触には内外への影響を考慮する必要があります。

 そして、後継については取引先などの関係者が納得することが必要です。経営者個人の人柄・能力に依る中小企業では特に重要です。取引先等への意見聴取、事前の後継者紹介といった手続きを尽くしましょう。                                  画面上部まで移動します

5 事業承継計画

(1)計画の作成

ア 経営計画

 現状分析を終え、承継について関係者の意思確認ができたら、承継後の具体的な事業計画を立てる必要があります。現経営者と後継者双方で協力して作り上げていきます。

 形式としては、承継から3年~5年までの中長期的な計画で、具体的な数値目標も定めます。

 計画を作るにあたっては、経営理念・方向性、将来の目標といった事項が基礎になるのでしっかりと明記しておく必要があります。

イ 株式移転の計画

 事業の承継には株式(支配権)の移転が必要であり、株式移転には対価や課税など必要となるので、移転時の株価が重大な関心事になります。

 そのためスムーズな事業承継のためには、株価評価の仕組みを理解したうえで、株価対策を講じる必要があります。

 →詳細については下記の「第2 承継 2 株式(支配権)の移転」を参照してください。

ウ 事業承継計画表

 事業承継に向けた具体的なスケジュールをまとめたものです。現経営者、後継者がともに詳細を理解して、着実に実行していくためのロードマップとなります。

 

(2)組織再編による事業承継の検討

 本稿では詳細には触れませんが、事業承継は単に株式の承継による場合だけでなく、会社の組織再編とともに行われる場合があります。

 どのような類型があるかを簡単に見ておきましょう。

 合併による事業承継は、経営者が複数の会社を有する場合で、合併して一つの会社にした方が株価の評価が下がる場合に利用できます。

 分割による事業承継は、一つの会社を複数に分割して別々に承継させることが可能になります。これにより後継者の適性に応じた事業承継や承継後のリスクの分散を図ることができます。

 株式移転(持株会社設立)による事業承継は、持株会社を設立し、持株会社の株式を承継させることで間接的に子会社の事業承継を行う手法です。この手法によって株価の評価を下げることができます。
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