4 問題事例②~供給者の解除~

(1)事例

例えば。。「AはBと『Bから材料を仕入れたうえ、加工した製品をBに独占的に売る』という継続的契約を締結した。

ところがAが納品しようとしたところ、Bは製品の買取価格を従前よりも低く提示し、この価格でなければ受領しないと一方的に通知してきた。Aは従前の価格での受領をBに求めたが応じないので、仕方なく第三者に製品を売却した。

Bは独占契約違反であるとして契約の解除を主張してきた。」

このように事実上取引関係を拒絶したうえで、相手方の契約違反を促して解除に持ち込むという事態もままあります。

 

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(2)継続的取引の解除の制限

このような理不尽にも思える解除は法的に制限されないのでしょうか?解釈上、解除には以下のような制限があると考えられています。

ア 契約解除には「特段の事情」が必要

そもそも継続的契約においては性質上当然に相当期間継続して取引することが予定されており,当事者間の信頼関係を基礎として成立しています。殊に,不動産賃貸借契約や雇用契約といった一定の継続的契約においては,民法や借地借家法においてこれらの契約の終了について更新拒絶や解約申し入れを制限する規定が設けられており(借地借家法6条・28条)、賃貸借契約解除について信頼関係の破壊を要求したり(最判昭和39年7月28日)、雇用契約において解雇権濫用法理により制限する等(最判昭和50年4月25日)、法令上・判例上も契約の継続性に配慮され一定の制約が課されている次第です。

そのため,形式的に解除原因に当たる事実がある場合でも「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」がある場合においては解除権は発生しないものと解するべきであるとされています(裁判例:札幌地方裁判所昭和63年4月4日)。

イ 期間の定めのある継続的契約

特に継続的契約に期間の定めがある場合には期間の定めのない契約と異なり、期間自体合意の対象となっているのであるから,期間中は一方的に解消されないという期待は保護する必要が高いと考えられます。

そこで,期間の定めのある場合の解除が認められるのは,例えば単なる債務不履行では足りず相手方の代金不払いなどの重大な債務不履行,信頼関係破壊行為,信用不安などむを得ない事由ある場合に限定すべきであると考えられています。

(3)参考裁判例


継続的契約の解除を巡る過去の裁判例においても、解除等による契約の解消については厳格に解されています。

ア 札幌地裁決定昭和63年4月4日

【事案】
新聞販売店である原告(債権者)が,被告(債務者)新聞供給会社に対して新聞販売店の地位確認の仮処分申立事件である(契約期間の定め有り 自動更新条項有り)。

原告が重篤な傷害を負い原告の妻らが販売店を承継して事業継続していたが承継から約8ヶ月後被告が承継を否定して,契約上の義務違反(購読者名簿,配達順路帳等必要な書類を作成常備,求められれば提示する義務)を理由に解除した。

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【判断】
①業務承継後の供給継続により、業務承継について被告の黙示の承認があった。

②継続的契約について形式的解除原因がある場合でも背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除権は発生しない。

⇒原告の業務に順路帳等なくても業務に支障はない,被告において業務承継前に前記帳簿類に特段関心を示していない。⇒背信的行為はないので解除権は発生しない。


この裁判例では,問題事例②と同じく継続的契約条項に違反する事実がありました。しかし、被告が事業承継について相当期間問責しないまま供給を継続していたことをもって,黙示の承認があったとしています。

また,裁判例では被告が契約条項に基づく解除の主張をしていますが,契約上の形式的解除原因に該当する事実があったとしても継続的契約の義務の本質的部分に関わらない該当事由については信頼関係破壊がないとして解除権は発生しないとしています。

イ 東京地方裁判所昭和36年12月13日


【事案】

供給者原告がX。被供給者被告がY。

ゴルフ靴製造業者であるXは継続的製造物販売契約(期間の定め無し)をYと締結しXの製品の9割をYに売却してYが総発売元として販売していた。Yは自社製品ゴルフ靴も製造販売していた。

Yが自社製品の値下げを行ったためにXも値下げを余儀なくされたとして、XはYの背信行為を理由に契約を解除した。Xの手形金請求に対してYは逸失利益の損害賠償請求による相殺を主張した。


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【判断】裁判例のような継続的取引契約においては,契約の存続を著しく困難ならしめる不信行為無い限り,一方的な解除はできない。

Yの自社製品の値下げは自由競争の範囲内であり不正競争とは言えないので解除原因を構成しない。


この裁判例は供給者による解除であり,売買契約の本質的債務である売買代金に直接影響する自社製品値下げを被供給者が行っていることが問題とされました。しかし、裁判例では不信行為と認めず解除原因構成しないと判断しました。

このように,本質的債務に関する不信行為でも必ずしも信頼関係破壊とは評価されません。

継続的契約は期間の定めある契約場合も多く、期間内の継続は前提とされ当事者の期間継続への期待が尊重されるので、期間の定めのある継続的契約においては信頼関係の破壊があったかはなおさら厳格に判断されます。

ウ 大阪高裁昭和59年2月14日

【事案】

被控訴人(原告):供給者X(学習百科事典の販売委託者)。

控訴人(被告):被供給者Y(同販売受託者 委託販売業者)。

XとYとはXの商品である学習百科事典の他の販売店への販売委託を目的とする期間の定めない継続的販売委託取引契約を締結し,商品の供給をしていたところ,YはYと同様Xの委託先である委託販売業者について倒産のおそれがある等虚偽の事実をその取引先に述べ高い手数料を提示して顧客を奪い,Xの商品の競争商品の販売代理店の会に加盟して販売促進に主要な役割を担い,Xの社員を引き抜き勧誘したり,Xの取引先にXが倒産する旨述べて競争商品の取引を勧誘する等行為を行った。

Xは再三Yに上記行為をやめるように申し入れたがYは応じなかったのでXは商品発送を停止した上で契約を解除した。

Yは商品供給停止が債務不履行に該当するとして損害賠償請求による相殺を主張した。

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【判断】
期間の定めない継続的売買契約においては相当の予告期間を設けた場合は別として,契約を継続しがたい重大な事由が存在しない限り契約を一方的に解除することはできない。

Yの行為は自由競争において許される範囲を逸脱して,Xに損害を与えるものである。本件契約を継続しがたい重大な事由に該当するというべきである。


裁判例は期間の定めない継続的売買契約についての事例です。

より契約の解消が緩やかに認められる期間の定めない継続的売買契約ですら,常軌を逸脱する事情をもってはじめて「契約を継続しがたい重大な事由」に該当するとしており、期間の定めある契約では解除の要件となる「継続しがたい重大事由」はなかなか認められないと考えられます。

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